チェコのものづくり。伝統を受け継ぐ藍染め工房と、新たな風を吹き込む孫娘の話|旅、チェコ。

トバログで連載中の『旅、チェコ。』より。

チェコの首都プラハから約280km。この日は早朝からバスに揺られ、スロバキアとの国境付近に位置する小さな田舎町『ストラージュニツェ(Strážnice)』へとやってきた。この街はヨーロッパでも有数の藍染め産業の地だ。

藍染めというとどことなく日本伝統の技術のようにも感じるのだけれど、実は紀元前3000年ごろのインドが発祥とされる。”インディゴブルー” はそこから由来していて、その後シルクロードを渡ってヨーロッパに伝来したそうだ。

その後ここチェコにも伝わり、19世紀ごろから代々、藍染めの技術が受け継がれている。そして2018年にチェコを含め中央ヨーロッパ地域の藍染め技術がユネスコ無形文化遺産に登録となった。

「いったいどういうふうに作っているのだろう」と気になったので、チェコの滞在期間中に見に行くことにした。

 

※『旅、チェコ』シリーズはチェコ観光局の招待を受けてチェコでの生活を発信する連載企画です。

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澄んだ空気と朝。バスに乗ってストラージュニツェへ

やっと太陽が昇り、朝霧が街全体を覆う午前8時。街を歩く人は疎らで、通学する小学生や散歩をするおじいちゃんとすれ違うくらい。

ここはチェコでも有数の藍染工房『ARIMO(アリモ)』。1904年にヨフ家が工房を立ち上げ、現在に至るまで4代続いている。実際に藍染をするところを見せてもらえると聞いてやってきた。

昔はここストラージュニツェにはたくさんの工房があったのだけれど、今残っているのは2軒のみ。ほとんどの工房が家族経営のため、若い人が後を継げなかったりすると廃業してしまうのだそうだ。

 

チェコのものづくり。家族経営の藍染め工房

工房内を見せてもらって、ちょっと驚いた。数人の職人が機械などを一切使用せず、すべて手作業で行っている。想像よりもこじんまりとした工房で、1904年の創業から変わらない道具と技術を守りながら経営を続けているそうだ。

みんな無言で自分の仕事に没頭していて、静かな工房内には「トン……トン……」と作業の音だけが響き渡る。

 

「我々の工房にようこそ」と、作業の手を止めて話しかけてくれたのは、この工房の現オーナーであるフランティシェク・ヨフ氏。

チェコの藍染文化をたくさんの人に見てもらいたいという理由から、工房内を国内外の観光客に開放している。温かくも真剣な目つきが印象的だった。

 

伝統を受け継ぎ、昔ながらの手法で藍染めをしていく

ヨフ氏が行っていたのは「防染糊(ぼうせんのり)」と呼ばれる、染色したくない箇所に散布する薬品を作る作業。

「それ、何でできてるの? 」と僕が聞くと、「これかい? これは代々うちの工房に伝わる秘伝の塗料なんだ。だから教えられないよ」と笑いながら返された。

藍染めってなんとなくテレビで見たことはあったのだけれど、実際にこうして職人が目の前で染色しているシーンは初めてみる。

 

工房内に「トン……トン……」と響き渡る音の正体は、藍染め前の布に版木で薄緑色の防染糊をスタンプをする音だった。版木も技術も、何代にも渡って受け継がれてきた伝統的な手法だ。

彼女はヨフ氏の孫娘で、現在25歳のガブリエラ氏。元々は別の道を志していたが、現在は後継ぎとしてこの工房で働いている。

 

「この工房には何十種類もの版木があるのよ。どんな柄にしたいかで使い分けているの。わたしが生まれるずっと前から使っている版木もあって、一番古いものだと200年くらい前から使っている版木もあるわ。」とガブリエラ氏。

 

たんぽぽのような柄が均等に並んでいる。10mはあるであろう大きな布地に、四方2cmサイズの模様を寸分違わずに押し込んでいくのはすごい技術。

普段の僕ならこうした柄は気にも止めないのだけれど、実際に目の前で見ると「こうしてできているんだ」とじっくりとみてしまった。職人ってかっこいいなあ。

 

柄付きの布地が完成したら、別の部屋にある濃い藍色の染色槽に何度も浸し、色を付けていく。このカラーは植物といくつかの化学薬品を用いているそうだが、残念ながらこちらも “秘伝の塗料” ということで具体的な原材料は教えてもらえなかった。

ちなみに藍染に用いられる植物は「藍」という植物があるわけではなく、「インディカン(Indican)」という有機化合物を多く含む植物であれば藍染めが可能とのこと。

日本やインド、ヨーロッパでも藍染めに用いられる植物は異なっており、チェコの藍染め技術は日本の「ジャパンブルー」ともちょっと違うかもしれない。

 

こうしてできた藍染め生地は、Tシャツやエプロンなどに加工されてお土産屋さんに出荷したり、工房の売店で販売している。濃いのインディゴカラーに可愛らしい模様が印象的だった。チェコの藍染めは日本でも人気なようで、ECサイトでもけっこう高値で取引されているそうだ。

 

チェコの藍染め技術を守る若き孫娘

柄をスタンプしていた孫娘のガブリエラ氏。この工房の最年少で僕と同い年で、オーナーであるヨフ氏の孫娘だ。「ちょっと話しかけてもいい? 」と聞くと「もちろん、どうぞ」とにっこり返してくれた。

 

――日本では家業を継ぐよりも都会に出ていく人が多いけど、チェコではみんな家業を継ぐの?

うーん、チェコでもほとんどの若者は街に出ていくかな。うちは田舎だから、例えば近くのブルノ(チェコ第二の都市)とか、プラハとか。英語とか別の言語を勉強して海外に出ていく人も少なくないわね。

 

――ガブリエラさんはまだ若いのにどうしてこの街に留まって家業を継ごうと思ったの?

実はわたしも学生時代は別の街に行っていたの。小さい頃からファッションのデザイナーを志していて、ファッションデザイナーズスクールに通っていたわ。本当は海外でファッションデザイナーとして活動したかったんだけど、ある日お母さんに「ファッションデザイナーになるなら家業の藍染めもちょっとやってみたら? 」って勧められて(笑)

そのときにちょっとだけ手伝ってみたら面白くてハマっちゃったのよ。それに「わたしの実家にはこんなに素晴らしい伝統があるんだ」って再認識して、すごく誇らしかったわ。

 

――それはクールだね。でも、ファッションデザイナーを目指していたのにちょっともったいないとは思わない?

もちろんそれはあるわね。でも今は仕事の合間に、この伝統的な藍染め手法を活かしたオリジナルTシャツをデザインしているの。実家の伝統とわたしが学んだファッションデザインを掛け合わせて、藍染めの新しい方向性を考えているわ。

 

ガブリエラ氏がデザインしたTシャツ。染色すると緑色の部分が模様になる

完成品。深い藍色が印象的。柄もどことなく新しさを感じる

今はこのTシャツをお土産店はもちろん、ECサイトを立ち上げてインターネットでも買えるようにしているわ。

 

――それは面白い! 新しい技術と伝統的な手法を掛け合わせるって素敵だね

ありがとう。まだまだこれからだけど頑張る! あなたも頑張ってね。

 

まとめ

旅、チェコ。』のコラムとしてユネスコ無形文化遺産にも登録されたばかりの「チェコの藍染め」を見せてもらった。この地域に数百年も前から根付く藍染め産業だが、現在はこの工房を含めて経営しているのは2店舗のみ。

産業の発展や資本主義化に伴い、若者の職人離れなど伝統技術を継承が難しくなっているためだ。一方で「この伝統を守りながら新しい方向性を探りたい」と、若き後継者がいるのも事実。

彼女はまだ若いけれど、そんな彼女を魅了するチェコの藍染めの未来は明るいと感じる。